【動画】研究論文での受動態・能動態の使い分け

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こんにちは!英文校正ワードバイスです。

研究者のための英語ライティングを解説する動画シリーズ、今回は、英語のライティングで表現したい文意とニュアンスを的確に伝えるために重要な「態」の問題を扱います。「研究論文には受動態」という常識に変化が訪れていることは以前の記事(セル(Cell)誌が指摘する英語論文での能動態・受動態)で紹介しましたが、重要なのは受動態・能動態どちらが正しいかではなく、それぞれの態が持つ機能を理解して、文意に応じて使いこなせるようになることです。動画と共に、解説を読んでみましょう。

研究論文の執筆において重要な「態」の使い分け

英語で研究論文を書く際、能動態と受動態の使い分けは、文章の分かりやすさや意図したニュアンスを正確に伝えるために重要なポイントとなります。

学校で英語を学んだ際には、スピーチや小論文を書くとき、主張を強くするために常に能動態を使用した方が良いと教わったかもしれません。しかし、この「能動態を使った方がいい」というルールを研究論文のライティングに応用するには何点か考えなければならない点があります。

研究論文ならば、むしろ受動態を使うべきではないのか?と考えた方もいらっしゃるでしょう。しかし、より伝わりやすい文章を書くためには、能動態と受動態のどちらか一つにこだわるのは良い方法ではありません。能動態と受動態はそれぞれ読者に与えるニュアンスに違いがあるからです。それでは一体、能動態と受動態は具体的にどのような機能を持っているのでしょうか?

能動態と受動態の違い

基本的に、英語の能動態は行動の主体を強調します。この時の行動の主体とは、人間や、その行動をした主体すべてが該当します。

Example: “We arranged the sample groups.”

この文では主語を“we”とすることで、その行動の重要性に焦点を当て、sample groupsに行った行動について述べています。weを主語にしているからsample groupsは重要でない、というわけではありませんが、主語に特に重点を置いた表現になります。

一方、受動態は基本的に行動を受ける人や物を強調します。

Example:  “Sample groups were arranged (by us/by the researchers).”

この例文では、“sample groups” が主語となることで最も重要な要素としてのニュアンスが加わっており、それはまた動作(arrange)の主体(研究者)が登場しないことからも分かります。ここで動作の主体を明確にするためには、“by us”や“by the researchers”を文末に追加することもできますが、文脈上、動作の主体が研究者であることは明らかであるため、冗長になるのを避けるためには省略する方が良いでしょう。また、受動態よりも能動態を使用した方が文章が簡潔にまとまりやすいというポイントは以前からご紹介してきましたが、この例文のような場合は、その例外として、動作の主体を省略することでワード数が少なくすっきりとした文章になるというのも覚えておきましょう。

能動態は本来「強い」「直接的」「明瞭」「簡潔」といった印象を持つ構造であるため、できる限り簡潔で明確な記述が求められる科学論文・臨床論文のガイドラインにおいては、特にその使用が推薦されています。しかし、だからといって受動態を完全に避けた方がいいというわけではありません。実際に、過去数十年にわたって科学論文で受動態が好まれてきたのは事実です。また、受動態の使用は時代遅れであるとか、逆に能動態の使用は斬新な印象を与える、と一口に言ってしまえるものでもありません。文章にバランスの取れた視点を取り入れるためには、同じ文意であっても受動態・能動態それぞれが内包するニュアンスを的確に理解し、意図して使い分けられるようになることが最も重要です。

受動態を使用した方が良い場合

それでは、科学的事実を記述するという前提で、なるべく能動態の使用を心がけながらも、受動態を使った方が良い状況にはどのようなものがあるのでしょうか。以下で3つの状況を挙げて解説していきます。

1.動作の主体が重要でない場合、分からない場合、もしくは読者にとって明らかな場合

動作の主体が不明な場合や文脈上あまり重要でない場合、もしくは読者にとってその動作の主体が明らかな場合は、受動態の使用が適しています。受動態の文章でも“by”を使用して動作の主体を追加することもできますが、冗長な印象を与えます。

Examples:

“Over 20,000 patients are diagnosed with diabetes each year (by doctors) in the United States.”

“Encyclopedias have been written (by scribes and scholars) throughout history.”

Carcharodon carcharias has been studied (by scientists) more extensively than almost any other species of shark.”

最初の例を見てみると、糖尿病の患者を診療する主体が医師だということは明らかであるため、by doctorsは不必要です。2つ目の例では、受動態とすることによって、百科事典を書く主体(著者)はあまり重要ではない、もしくは不明であるというニュアンスが付加されています。もちろんここで百科事典の著者が明確で重要な場合にはbyを使用して付け足すこともできます。3つ目の例では、研究をする主体が研究者であることは極めて明確なため、主語にしていないと考えられるでしょう。

2.動作の受け手や動作そのものが、動作の主体よりも重要な場合

研究論文の英文で受動態が多く使用されやすいのは、動作をしたのが誰かということよりも、研究それ自体やその中で行われる実験・分析・発見それ自体の方が明らかに重要であるからと言えるでしょう。このように動作の対象や動作それ自体に焦点を当てた記述(受動態)が、特にMethods(研究方法)セクションなどで多く使用されるのもその理由からです。

Examples:

“Frozen embryos were stored in a cryogenic tank for two weeks.”

“The extract from sample A was added to sample B to create a mixture.”

“The results were assessed using a Chi-square statistic.”

上の3つの文章を能動態を使用して書き換えてみると、どうでしょうか。

“We stored the embryos in a cryogenic tank for two weeks.”

“We added the extract from sample A to sample B to create a mixture.”

“Our team assessed the results using a Chi-square statistic.”

能動態で書き換えた文章を見て、ここで能動態を使用することにどのような利点があるのか考えてみましょう。受動態の文章も能動態の文章も単語数はほとんど変わっていないため、能動態を使用することで文章が簡潔になっているわけでもありません。また、能動態にすることによって“we”や“our team”が重要な要素として強調されていますが、これらは研究方法を述べるこの文脈において重要とは考えられません。このように、能動態は文章を主張を強めたり文章に活気を与える機能を持っていますが、それは何らかの動作や発見事項の記述という目的を持つ科学論文ではあまり適していないと言うことが分かるでしょう。

研究論文で受動態がもたらす利点として、文章が多様になりやすいという点もあります。動作の主体を主語とする能動態が続くと、主語はほとんど「研究者」になってしまうため、単調な文章になりやすくなります。リズム感のある文章も読者の読みやすさ・伝わりやすさに大きな影響を与える要素です。

3.動作の受け手が文章のメイントピックである場合

文章において主題となる要素を文頭に持ってくるというルールに従うと、多くの場合、受動態を使用する必要が生じます。基本的に英文を書くときは、要素を文頭(topic position)に置くことで、それが文章のメイントピックであることを示すことができます。

同様に、文末は“stress position”と呼ばれ、文章の主題を説明したり変化を与えたりする重要要素を配置すべきと言われています。

Examples:

Active voice: “Scientists once classified slime molds as fungi, but they no longer classifythem as part of that particular kingdom.”

Passive voice: “Slime molds were once classified as fungi but are no longer consideredto be part of that particular kingdom.”

能動態の例で、“scientists”はトピックポジションに置かれ、“part of that particular kingdom” はストレスポジションに配置されています。この配置は読者にとってどのようなニュアンスを示しているでしょうか。一つ目として、“scientists”がおそらく文章の重要要素であるという印象を受けるはずです。二つ目として、“part of that particular kingdom”を文章の最後に配置することで、読者はこれがトピックを説明する要素としての役割を持つと読み取ることができます。

受動態の文章ではどのような違いが生じているでしょうか。受動態の文章では、“slime molds”がトピックポジションに置かれ、それが文章の中心的な要素であるという印象を与えます。

態を使い分けて文章の要点を示す

このように、意図した文意を正確に伝えると言う点で、文中での「要素の配置」と「態の使い分け」は重要な役割を果たします。特に、どちらも同じくらい重要な二つの要素について語るとき、「態」の選択はそのどちらに文章構成上の重点を置くかということを決定します。例えば、次の二つの文章中には、少なくとも二つのメインとなる要素がありますが、受動態・能動態とそれによる要素の配置によって重点が置かれる要素が異なります。

Examples:

Active voice: “These amoeba coalesce into a multicellular, slug-like coordinated creature that grows into a fruiting body.”

Passive voice: “This multicellular, slug-like coordinated creature, which eventually grows a fruiting body, is created by coalescing amoeba.”

二つの文章どちらも、中心となる要素は“amoeba”と“multicellular, slug-like coordinated creature”です。能動態の文章では、ライフサイクルを時系列的に説明しており、先に挙げた二つの中心要素を平等に並列させています。また、“amoeba”と“fruiting body”がそれぞれ文頭と文末に置かれることで、ライフサイクルにおける重要要素であることを示しています。

受動態の文章では、“multicellular, slug-like coordinated creature”がトピックポジションに置かれ、“amoeba”はストレスポジションに置かれています。能動態の文章とは対照的に、“fruiting body” は関係詞を用いてあくまで“creature”から派生するものとして記述されており、語順も”multicellular creature”自体に焦点を当て、その他の要素は補足情報として扱っているのが分かります。しかし、それでも“amoeba”をストレスポジションに置くことで、その重要性も同時に強調しています。

能動態と受動態を組み合わせる

IntroductionやDiscussion、Conclusionなどロジックの流れが重要となるセクションでは、より文意を明確にし、意図したニュアンスを的確に伝えるために受動態・能動態を組み合わせることが必要となってきます。

能動態と受動態を組み合わせて文章を構成していくには、“connects backwards”の手法を使うのがポイントです。これは、パラグラフの最後の文章が、最初の文章の「目的」を説明するような構成のことを言います。Introductionを例にして見てみましょう。

Example of three cohesive sentences (active—passive—passive):

[Excerpt from “A Possible Correction of the Face Inversion Effect: A Methodological Commentary” (Rakover, Sam and Cahlon, Baruch)]

“The present commentary concerns the face/object (UI) effect. This effect can be explained by appeal to either innate or learning factors. However, this effect can also be influenced by another factor, the ‘baseline-level,’ which is the focus of the present commentary.”

これらの文章はIntroductionセクションでよく用いられるような形です。最初の文章で能動態を使用して、はっきりと直接的に研究主題(ここでは“the face/object (UI) effect”)を述べ、後に続く説明が何のことを述べているのか理解するための前提情報を提供しています。

2つ目の文章では、受動態を用いて研究テーマへのアプローチの方向性を示しています。

そして、3つ目の文章では上の二つの文章の内容を受動態を使用して統合しています。3つ目の文章は2つ目の文章と並列した構造をとっており、“influence”を使って研究テーマと一つの統合された行動として説明しています。

この文章では“the effect”というトピックに焦点を当てることで、能動態と受動態を組み合わせた構造をとることができており、このような構造は同じ態の構造を取る文章の連続よりも自然で、読み手に取って理解しやすくなります。

研究論文での能動態・受動態:まとめ

ここまでの内容から、能動態と受動態を効果的に使い分けると、以下のような利点があることがわかります。

  • 文章中で最も重要な要素を分かりやすくする
  • 無駄なワード数を減らす
  • 文章のリズムや構造に変化を持たせることで文章を読みやすくする

エディター(この文章のライターKevin)の経験則としては、まずは能動態で文章を書けるか検討し、受動態にした方が良い明確な理由がある場合のみ、受動態を使用することをお勧めします。

受動態が適しているのは以下のような場合です。

  • 動作の主体が不明か、重要でないか、読者にとって分かり切っている場合
  • 動作の主体が動作そのものより重要でない場合
  • 動作の主体が文章のトピックよりも重要でない場合

参考資料

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