英文抄録(アブストラクト)作成時の注意点

学術英語論文執筆

1. アブストラクトの重要性

1998年度、アメリカNIHにて調査した報道資料によると、世界的に発刊されている科学技術分野の学術誌は5万件を超えていると言われています。毎月定期的に発刊されるジャーナルに掲載される論文の数だけを見ても技術論文の数は多く、そして内容も多岐にわたります。正式な学術論文の形態を取らない、科学技術関連文書やインターネットを通した情報を含めればその数は膨大と言えます。したがって、科学者が専攻分野の論文をすべてを網羅的に読むというのは現実的に不可能な話です。このような理由から、すべての科学技術関連文書は本文の要点のみをまとめたセクションとして、「アブストラクト」を作成します。

また、アブストラクトは論文本文の縮約版として、他の研究者が最も必要とする情報に手早く到達できるようにする役割を担います。よって、多くの場合アブストラクトセクションは本文の前に配置されます。読者はまずタイトルを見てその論文を読む価値があるか判断し、次にアブストラクトを読むことで更に本論まで読み進めるかどうかを判断します。アブストラクトが読者の興味を引くことができなければ、本文に重要な内容が含まれているとしてもその価値を失うことになってしまうのです。したがって、読者が論文の核心を早く正確に把握できるよう、アブストラクトは常に明確で分かりやすく構成されている必要があります。ほとんどの場合、読者はアブストラクトにのみ目を通すため、論文のセクションのうちアブストラクトが最も大きな影響力を持っていると言っても過言ではないのです。
論文のアブストラクトは他にも重要な役割を担っています。日々溢れかえる技術関連資料は『抄録集』のような形態で再編集され配布されることがよくあります。一人の研究者が原本が論文の原本まで所蔵している場合は少なく、多くは抄録集が論文に接近する唯一の手段ともなります。図書館にもすべての学術誌の原本までを取り揃えることは難しく、その多くは抄録集の形で所蔵されています。通常、原本が必要な場合は図書館ネットワークを利用した別途のサービスを提供していることが普通です。
アブストラクトは本文の縮約版と言えます。アブストラクトが良くできていると本文も期待でき、インパクトがない場合は論文自体の質も疑われてしまいます。論文審査者や編集者もまずアブストラクトを読み結論を把握したところで出版可否を最終判断していまう場合も多くあります。したがって、読みやすくよくまとまったアブストラクトを作成する方法は必ずマスターしておかねばなりません。

2. アブストラクトの種類と内容

アブストラクトは読者が研究成果に早く正確にたどり着けるようにするための手段として、独立したセクションとして論文のヘッダー部分に記載されます。しかし、アブストラクトは論文の縮約版とはいっても、論文のすべてのセクションについて同一な比重で記載することはしないのが慣例として定着しています。アブストラクトの種類には大きく分けて情報提供式(informative)と内容指示式(indicative)があり、その性格によって比重を持って扱われる内容には違いがあります。

 

(1)情報提供式アブストラクト(Informative Abstract)

論文の核心を縮約した形で記述するのがこのタイプで、“何をどう研究した結果、結論はこうなった”という流れを持ちます。論文の内容を直接的に記述するために、研究の目的や背景、実験方法、研究結果の要約と結論を順序に沿って作成します。研究目的を記載する理由は研究の特性を表すためであり、方法を説明するのは結果を証明する基礎になるためです。このようなアブストラクトでは本文にて説明されていない内容について触れることはせず、結果に対する著者の考察も含まれません。このタイプのアブストラクトは研究内容を理解しようとする研究者のために作成されます。従って、本文を代替することができる独立的な形態となり、イタリック体(斜字)を使用したり、本文とは違ったフォーマットを使用することで目につくように作成されることが多くあります。このような形態のアブストラクトによって、同分野の研究者たちがその研究発展動向を効果的に理解することができます。

 

情報提供式アブストラクト(Informative Abstract)の例

    The high strength of gold thin films have been studied to examine the contribution of thickness and passivation effects on these properties. Water curvature/thermal cycling measurements have been used to study bare gold films raging in thickness from 0.1 to 2.4 micrometers. We found that the room temperature stresses in these films are related inversely to the film thickness when thickness is greater that I micrometer. This relationship is expected from a dislocation constraint model of plasticity. However, thinner films have stresses substantially lower than this relationship would expect. Additionally, on unloading, these films show stress-temperature slopes not predicted by a simple dislocation model. This strengthen effect of thinner films is consistent with the shutting down of diffusion near the free surfaces of the film.

(2)内容指示式アブストラクト(Indicative Abstract)

“○○に関する論文である”と包括的に記載し、論文の内容について具体的には説明しないのがこのタイプです。研究の目的と方法、そして論文で扱った包括的な範囲のみを紹介します。つまり、読者が本文に興味を持てるかどうか判断しやすいように、結論については触れません。論文に掲載されている情報のタイプのみを短く説明する形態をとるため、このタイプのアブストラクトは本文を代替する機能は持ち得ません。従ってこのタイプのアブストラクトは学術論文に適さず、他の技術文書(review paper、学会報告書、政府文書など)に適しています。このようなアブストラクトは図書室司書、書誌学者や文献調査者にとって有用です。
学術誌毎にフォーマットの違いはありますが、抄録(abstract)または要約(summary)はヘッダーに掲載されるのが普通です。しかし、アブストラクトと要約は次のような違いがあります。アブストラクトは本文の「非線形的な」縮小版です。アブストラクトでは本文の内容のうち完全に省略される部分もあれば、含まれる部分であっても本文とは異なる形で省略されます。それに対して要約は本文のすべての内容を代表するためのものであり、本文と同じ比率で各セクションについて縮約します。よって本文の内容によってその分量も変化します。アブストラクトの場合学術的な重要度と各ジャーナルの規定に応じて限定的な内容となります。したがって、要約は多くの場合アブストラクトよりも長くなります。

内容指示式アブストラクト(Indicative Abstract)の例

    Diffusion is a process that is fundamental in the art and science of materials. The knowledge of diffusion behavior, therefore, is essential for the production of materials or for the use in practical applications, In the first part of this paper, a brief review is given on historical development of the quantitative study of diffusion: the establishment of the diffusion law by A. Fick, the first quantitative measurement of solid state diffusion(Au in Pb) by W. Roberts-Austen and the demonstration of the self-diffusion in Pb using natural radioactive isotope by G. Hevesy. In the second part, recent investigation on the mechanism in intermetallic components are reviewed.

 

3. アブストラクトの作成要領

(1) 目標と背景

アブストラクトの最初の文章は論文の目的を提示する意味を持ちます。序論の縮小版として、研究の目的や核心となるテーマを扱うことになった背景をできる限り一文の中に収めるようにします。テーマ選定の背景として既に一般化されている内容まで語るのは目新しさに欠けるため、簡単明瞭であることが求められるアブストラクトには適しません。テーマに論文の目的が忠実に反映されていれば、本文の入りでそれを繰り返すことなくそのまま研究方法について記述することができます。アブストラクト部分に参考文献は記載しません。

(2) 研究方法

研究方法に関わる説明は1~2文に収めるようにします。ただし、論文にて使用した方法が論文の核心となる場合、また、新しい方法や複雑な方法を使用した場合などは研究方法について詳細に記述する必要があります。その場合研究方法に関する記述がアブストラクトの大部分を占めても構いませんが、逆に結果部分については簡略にまとめなければなりません。
方法論についてアブストラクトでどのくらいの分量を割くかは、使用した研究方法がどれだけ独創的かに左右されます。新しくて重要な内容に(例; 新しい化合物、装置、工程、分析方法やプロセスなど)に焦点を当てなければなりません。つまり、一般的な方法や該当分野の研究者に良く知られている方法を使用する場合はできる限り簡略にまとめ、新しい方法論を使用することが論文にて重要な意味を持つ場合は、方法論の説明に多くの分量を割くようにするなど、本文における重要度に対応した配分が行われなければなりません。

(3) 結果

技術論文は新しい科学知識と情報を蓄積する目的があるため、アブストラクトにおいては結果部分が最も重要です。したがって、結果に対する記述がアブストラクトの大部分を占めることになります。複数の結果のうち最も価値のある(重要な)結果のみをできるだけ少ない文章量で記述しなければなりません。アブストラクトには核心的なデータを含む結果を叙述式の文章で表現することが適切です。読者はデータを必要としますが、表、グラフ、写真またはダイアグラム等の形態でデータをアブストラクトにて紹介するには分量が多すぎます。また、数式やそれに対する証明をアブストラクトにて紹介することも避けるべきです。

(4) 結論

最後の結論は大概一文で締めくくります。結果に対する解析・考察は論文の重要な内容ですが、アブストラクトには記載しないのが慣例です。実験結果の分析は、人や時期のように可変的な条件応じて変化し得るものだからです。

(5) その他の事項

アブストラクトは独立して流通するため、単体として読者にとって分かりやすいものでなければなりません。読者はアブストラクトに目新しい情報を求めているため、周知の事実や参考文献、そしてこれからの計画やアイディアをアブストラクト部分に記載するのは不適切です。
アブストラクトにて使用する単語は慎重に選ばなくてはなりません。略字・略語・類義語などは極力使用しないようにしましょう。英文アブストラクトの場合可能な限り一段落で作成し、200~250単語と指定されることが一般的です。中国の文化革命時代はアブストラクトの半分以上を毛沢東に対する賛辞が占めた時代もありましたが、それももう過ぎた話です。アメリカでのある調査によると、学術論文で単語あたりの出版費用は12セント程度だと言います。不必要に長い論文はそれだけ非経済的でもあるということです。
論文はすでに完成されたある事柄を発表するためのものであり、多くの場合一般的な単語を使用し、動詞は過去形を使用することが原則です。しかし、アブストラクトと結論は内容に現実感を加えるため、相当数の研究者は現在形の使用を勧めています。どちらの時制を選ぶかは論文著者の選択です。
日本語の論文であってもアブストラクトは英文で作成することが一般的になっています。下記は専門家が特にアブストラクトで使用を勧める単語選択の例を示したものです。

 

一般的な表現方法 アブストラクトでの表現方法
based on the fact that …at the present time …for the purpose of …In this study we assessed …It was found that …It is still likely that …

It is interesting to note that …

It should be mentioned that …

in the range of 1 to 10

with the exception of …

because …now …for …we assessed …It was …probably …

It is …

It is …

from 1 to 10

except

論文執筆の場合も同様ですが、アブストラクトの執筆で特に強調されるのは、可能な限り受動態の使用を控え能動態を使用して記述するということです。その理由は文意を正確かつ簡潔に伝達するには受動態よりも能動態を使用した方が適しているためです。次の例文にその違いがよく表れています。

受動態 能動態
It was found …This phenomenon may be explained by several factors… are found to be in agreement We found …Several factors may explain this phenomenon… agree

4. 英文抄録執筆プロセスのガイド

様々な文献で専門家が勧めているアブストラクト執筆方法に関して結論を言えば、「アブストラクトは論文の頭を飾るものだが、一番最後に作成すること。」となります。
まず、本文が完成した後アブストラクトを執筆する段階で、研究目的・方法・結果・結論部分に注意しながら論文全文を読み直します。それから再度論文を見直すことなく、核心部分のみを頭の中で構成しながら下書きを作成します。先に序論と考察を見て研究目的と結論を抜き出します。そして方法と結果からアブストラクトで言及すべき重要な部分をチェックした後、重要な単語や核心キーワードを選び出します。このプロセスで選びだした内容を編集し、下書きを作成します。この過程で本文の文章をコピーしてしまうと、内容が冗長になったり、逆に不十分な内容になったりするので注意しなければなりません。
下書きが出来上がったら、構想の弱点とテーマとの連関性を見直しながら修正を重ねます。下書きは多くの場合字数制限よりも書きすぎる傾向があるため、重複する部分を削除したり縮約する作業が必要です。長すぎる用語は、反復して使用する場合を除いて、略語は使用しない。省略が必要な場合は、本文にて最初に使用するときに略字を併記します。
次はアブストラクトに含まれる要素と単語数とのバランスを見直します。下書きから単語、節、文章などを省略していき、それ以上簡略化できるか繰り返し検討する段階です。まず意味が重複している単語や文章を探して削除し、重要でない情報も削除します。そして結果と方法を説明する文章から限られた単語数に合わせて詳細な説明は省略するようにする。それでも2~3以上長い場合は、情報の取捨選択を再度行い、重要性が低い情報は思い切って犠牲にしなくてはなりません。
最後は見直しの段階です。文章を最初から書き直したり同じ内容を繰り返すことは避けながらも、できるだけ多くの知識を短い文章に込めることができるように神経を配ります。そして、最終チェックとして本文のグラフやデータと照らし合わせて情報の正確性を検証します。文章間の接続語を見直し、文法のチェックをして完成です。

 

日本語論文を準備中の皆様も英語アブストラクトを求められる機会は多いことと思います。英語でのアカデミックライティングに慣れていない場合、1ページのアブストラクトの作成も最初は困難なものです。

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