2023年10月03日

論文の二重投稿について知っておくべきこと

Wordvice

こんにちは!英文校正ワードバイスです。

一つの研究を終え論文を完成させるまでには長い時間と多くの労力が必要です。しかしやっと投稿まで漕ぎつけたというのに、待ち受けているのはジャーナルの長い審査期間。

皆さんもご存知のように、学術界には「論文は同時に2つ以上のジャーナルに投稿してはならない」という原則があります。しかし、一つの論文の審査期間が短くとも数週間、長ければ数か月要することを考え合わせれば、複数のジャーナルに投稿してみて可能性を少しでも上げることの何が問題なのだろうか、という疑問を抱いたことのある方は多いのではないでしょうか。どちらにしろ論文は掲載まで修正を求められるのだから、一度にいくつかのジャーナルに投稿してみて、ひどいレビューを受けたジャーナルからは辞退し、掲載してくれそうなジャーナルに絞って修正を加えればいいのではないか、と考えたことはありませんか?

しかしながら、論文の同時投稿・二重投稿が禁止されているのには、それなりな理由があります。今回の記事では、重複投稿が論文著者・ジャーナル・読者それぞれに与えうる影響を解説するとともに、二重投稿を避けながらも論文の影響力を最大化するためにはどのような代案があるのかも見ていきます。

論文の同時投稿・二重投稿が禁じられている理由

論文の同時投稿・二重投稿はなぜ禁じられているのでしょうか?倫理的側面、法的側面、事務的側面、ジャーナルの名声という面からその理由を見ていきましょう。

ジャーナルの名声

ジャーナルの名声は、同分野の査読者により厳しく審査された高品質な論文を掲載することによって保たれています。ジャーナルは読者にとって斬新で価値ある知識を提供しているという事実に誇りを持っています。もし他のジャーナルで既に紹介されている研究結果を掲載するようなことがあれば、読者はそのジャーナルの論文審査過程について疑いを持たざるを得ません。つまり、読者が抱くジャーナルへの信頼は失墜し、同時にジャーナルのプライドと名声は失われます。また、重複掲載の影響を受けるのは著者やジャーナルだけでなく、読者も同様です。同一の研究が複数のジャーナルに掲載されるようになった場合、実は中身が同一だということを知らない読者が「同じテーマで複数の研究が行われていて、しかもすべて同じ研究結果を示している」という認識を持ち得ます。読者は特定の研究テーマに対して異なる複数の研究が行われているかのように錯覚してしまうことで、一つの研究結果が該当分野での支配的な成果であるかのような印象を受けてしまうのです。

法的問題

法的側面から見ると、論文の出版権という点で多重投稿は問題になります。通常、特定のジャーナルに論文を投稿しアクセプトされた時点で、そのジャーナルへの独占的な出版権を認めたと見なされます。ほとんどの場合、ジャーナルに投稿した論文の著作権については著者に帰属しますが、出版権は投稿ジャーナルの独占的な権利となります。あなたの論文の出版権を複数のジャーナルが獲得したらどうなるか、想像してみてください。権利問題の解決のためにあなたや両ジャーナルのエディターは莫大な時間と労力を費やすことになるばかりか、どちらのジャーナルからも論文が拒否されてしまったり、掲載後に却下されたりする可能性が高まります。

事務的問題

より実際的な問題もあります。最終的に掲載できないかもしれない論文のために、費用と労力をかけて審査してくれるジャーナルなどどこにもないということです。インパクトファクターの高いジャーナルであるほど、完成度の高い論文を選び出すために数えきれないほどの人的資源と数か月もの時間を投じています。著者は一つでも多くの論文を発表しなければならないという負担を背負っているかもしれませんが、それはエディターにとっても同じです。いかに最新の、重要な論文を掲載できるかにジャーナルの名声や存続のすべてが懸っているからです。最終的に「やっぱりやめた」となってしまう著者の論文を審査するために割く資源はありません。

また、一つの論文につき同時に一つのジャーナルのみが審査する現行のシステムは、ジャーナル側が処理する書類の量を減らして効率化を図ることで、審査期間を短縮できるという点でも意義があります。もしも一つの論文を同時に多数のジャーナルに投稿できるようになってしまったら、それだけ審査の待ち時間も今まで以上に延びてしまいます。

二重投稿禁止のルールに違反した場合

上で述べたように、重複投稿が発覚した場合考えられる結末としては、①ジャーナルから論文の投稿拒否 ②論文が既に掲載されている場合は非公開処理 の二つが有力です。稀にジャーナルにとって特に有益であると判断された場合、提出した原稿を他の形式(短い記事など)に変えて再提出することを求められる場合もありますが、どの場合にしても、ルール違反には変わりがないため著者に対する出版社の信頼は既に失われています。また、重複投稿のみならず他の規定への違反がないかどうか再審査される要因にもなってしまいます。

二重投稿に関わるその他様々な問題

内容が一字一句違わぬ、まったくもって同一の論文を2つ以上のジャーナルに投稿することだけが、重複投稿ではありません。研究の内容が酷似していたり一部重複している複数の研究や、また、本来一続きの研究成果を巧妙に形を変えて複数に分けて発表するような手法(いわゆるサラミ法)も実際よく行われていますが、厳密には重複投稿違反となります。しかしこれらはグレーゾーンであり、問答無用で重複投稿と判定されるとは言えません。それぞれの論文が個別の特徴を持つ場合、特に各論文の中で差別化された発見を提示できている場合などは、修正を経て受理される場合もあります。ただし、研究の類似点をエディターや査読者から指摘された場合には、それぞれの論文の区別を明確にするよう注意して修正しなくてはなりません。サラミ法はもちろん推奨できるものではありませんが、一つの大きな研究課題を追究する中で得られた複数の独創的な結果について、個別の結果にのみフォーカスした独立した論文を発表するならば問題はありません。

二重投稿以外の手段

そもそもなぜ二重投稿が起こるのでしょうか。二重投稿の目的は何かと考えてみれば、主に下の二つを挙げることができるはずです。

① 論文を効率的かつ確実に発表するため
② 論文をなるべく多くの人に認知させ、影響力を行使するため

この二つを達成するための方法は、二重投稿以外にもあります。

Pre-submission queries

論文投稿前の段階でジャーナルエディターに対し、投稿予定の論文が該当のジャーナルに適しているかどうか質問することができます。質問は複数のジャーナルに同時に送っても構わないため、この回答からジャーナル側の反応を窺い知ることができ、投稿ジャーナルを絞り込むのに役立ちます。また、このプロセスは論文著者が投稿ジャーナルを見極めるために有益なだけでなく、ジャーナル側も本格的な審査をする前に投稿論文を絞り込むことができるという点で有益です。積極的に活用していきましょう。

Pre-printing

プレプリントを利用してみるのも手です。例えば、最も有名なプレプリントプラットフォームとして物理科学分野のarXivなどがあります。

もちろん、プレプリントは査読を受けた原稿の発表ではないため、プレプリントのコミュニティへの投稿をジャーナル投稿と同じと見なしてはいけません。ただし、プレプリントの発表にはジャーナル投稿審査のような長い待機時間がないため、該当分野の研究者に最新の研究結果の存在を一刻も早く認知させることが重要な最先端分野などでは、非常に有効な手段です。

このとき、ジャーナルによってはプレプリントの公開を認めていない場合もあるので注意しましょう。例えば、ダブルブラインド方式の査読を行うジャーナルの場合、投稿前に他の手段で論文を発表してはいけません。 事前に論文を発表してしまっては、研究やその著者、また査読者に対する偏見を防止するためのダブルブラインド制度が無意味になってしまいます。特に大手のプレプリントコミュニティに投稿された場合などは、ジャーナル側でダブルブラインドのためにその論文について知らない査読者を探し出すのが困難になってしまいます。

論文の二重投稿問題についての追加資料

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